喘息治療の原則
#1 発作の予防薬を充分に使う、ただし漫然と使わないこと
#2 発作の時は速効性の薬を使用するが、それだけに頼らないこと
#3 症状を記録し、定期的に学習すること
開業して驚いたのは、気管支喘息を適当に治療されている患者さんが多いことです。病院に来院される患者さんは熱心に記録をつけておられる人も多いのですが、そちらのほうが少数派だったようです。喘息は死の可能性のある病気ですから、本当は検査(ピークフロー)や症状の記録をつけて管理すべきですが、ただ薬をもらっている人が多いのが現実のようです。
喘息の治療のためには病気に対する理解が欠かせません。急変の場合の対処法と、普段のコントロールの仕方を勉強しておくべきです。病院に行っても、待たされたあげく待合室で風邪をもらうだけでは意味がありません。
喘息は、急変に備えることで急変が少なくなる病気の典型です。
飲み薬を吸入薬より優先している方が多く、例えば今でもロイコトリエン受容体拮抗剤という薬がよく処方されていますが、これは必須の薬ではなく、値段が高くて効果はマイルドなので、吸入薬を充分調整した上で使うべきです。
吸入薬にも選び方があります。命に関わる病気ですから医者や患者の自己流ではなく、治療指針に従って管理すべきだと思いますが、熊本県では自己流が主流の傾向があります。
吸入薬に関しては、宮川医院(県外)の解説
(http: // www6.ocn.ne.jp/~miyagawa/04_04.html)によくまとめてありますので参考にしてください。
(補足 薬について)
吸入薬に決定版はありません。各々の薬に関して私なりの印象を述べてみます。ただし、反応には個人差がありますので、私が弱いと言った薬が非常に効くこともあります。
フルタイド
薬剤は強力ですが、大量に使ってもコントロールできないことはあります。また、肺への到達率が不充分だと言われています。肺に行かなかった残りの部分は飲み込まれて腸から吸収されますから、全身への影響が心配です。コントロールの悪い人によく使いますから量も多くなりますので、副腎という臓器の機能に影響する可能性があります。実際にこの副作用を起こすのはフルタイドだけだという結果もでています。吸入した後の喉の不快感も言われることもあります。薬の残量の確認は、やりやすいと思います。
パルミコート
パルミコートタービュヘイラーは薬の粒子が小さく喉には何も感じませんが、それがかえって心配です。本当に吸ったのか分らないので代えてくれと言われる患者さんもおられます。肺への到達率が割に高いことと添加剤が入ってないことから、妊婦さんや若い方にはお勧めですが、薬剤自体の強さはフルタイドほどないと言われていますので、量を多めに調整する必要があります。
逆さにして粉が出るのか黒い物の上で試しにたたいてみると、最初の1〜2回は途中に引っかかって何も出てこないことがありますので、ちゃんと薬が入っているのか不安になります。残量の表示が小さすぎて見えにくい印象もあります。
キュバール
キュバールは噴霧の勢いがあって肺への到達率が高く、実際にフルタイドから切り替えて非常に改善する人も多く、フルタイドでのコントロールが不十分な人は試すべきだと思います。
ですが、吸入のタイミングを間違えればどれくらい届くか疑問です。液の残量が分りにくくて、薬剤がなくなっても溶解液がたくさん残っているので、勘違いしてそのまま使用しないように注意しなければなりませんが、その確認は手の感覚だけでは無理です。メーカーからは残量確認の器具がもらえますが、面倒くさがって測らない人もいるでしょう。
以上の3つはステロイド薬で、発作の予防をねらっていますが、予防薬なので効果を判定できるまでに少なくとも1〜2週間かかるのが難点です。そのため、「医者に言われて使ってみたけど、効かんからやめた。」と、よく言われます。効果発現に時間がかかると繰り返し説明するのですが、苦しいのに我慢しろと言っているように聞こえて不信感を与えるのかも知れません。
アドエア シムビコート
これらは、ステロイドと気管支拡張剤を最初から混ぜたタイプの吸入薬の商品名です。器具が進歩して使った回数が表示されることと、今までセレベントなど2種類の薬を併用しないといけなかった人が1種類でよくなりますから、手間ははぶけます。それに速効する実感が得られやすいことも良い点です。
ただし、フルタイドでコントロールできない人は往々にして吸入の要領が悪いか吸引力が足りない人が多いので、このような人には効かないようです。値段が高いので、フルタイドしか必要ないのに無駄にセレベントの成分も吸わせられるのはバカらしいという考え方もできます。
海外で報告されたように入院率が上がるかどうかは解りませんが、吸入薬の基本になりえる薬だと思います。2種類を使い分けるのが面倒な人には向くというのが印象です。
セレベント
気管支を拡げるセレベントという吸入薬も使いやすい薬だと感じます。単独では使えませんし、同じく気管支を拡げるメプチンのように、使ったらすぐに効果が実感できるような薬ではありませんが、だからこそメプチンのように乱用されることは少ないのではないかと思います。どれだけ説明してもメプチンしか使わない人が結構多くて、発作を予防できなくていつも困ります。メプチンは軽症の時には速効性がありますので効くと実感できます。でも、治療薬の中心ではありません。
ホクナリンテープ
日本ではホクナリンテープも使えます。長時間作用型の気管支拡張剤で、軽症の時には有効です。子供の気管支炎には便利です。世界的な評価は分りません。
長時間作用型気管支拡張剤で気になることは、海外の報告ですが、入院する事例を増やしている可能性があることです。私が処方した限りでは、皆さん症状が軽くなったとおっしゃっていましたが、もしかするとそのため予防薬を止めたりする人がいるのかもしれませんし、症状をマスクするためにかえって激しい発作が来るのかも知れません。予防薬を中心にすることを繰り返し説明する努力が必要だと考えます。
ロイコトリエン受容体拮抗剤
飲み薬のオノンが発売された時は、大変期待しました。その後、1日1回でよいキプレス、シングレアも発売されて使いやすくなりました。有効な人もいますが、劇的に効いた患者さんは経験ありません。別な抗アレルギー剤では劇的に効いた人が何人もおられます。
薬の値段が高いことが欠点です。吸入が要らないのかと勘違いされてステロイド吸入薬を中止して、具合が悪くなった患者さんもおられました。吸入薬自体が安い薬ではないので、節約したいという心理が働くのかも知れません。
テオフィリン
テオフィリン製剤に関しては、私は今まで乱用されていたように感じますが、少量を続けるほうが炎症反応を予防するというデータもありますので、量に注意しながらなら使うべきかも知れません。
血液中の濃度をすぐ判定できれば使いやすくなるはずですが、救急の場では難しいでしょう。併用薬を選ばないといけないことと、けいれん誘発の問題、発熱の時の使い方などを考えると、個人的には使いたくない薬です。実際に、発熱のとき減らして下さいと言って、その通りにできる患者さんは限られています。私は、この製剤が大量に必要という患者さんを経験していません。
ステロイド内服剤
ステロイドの飲み薬は、使い方さえ間違わなければ効果のある良い薬ですが、たまに乱用される方もおられるので、説明に注意しなければいけないと考えています。副作用も多岐にわたります。しかし、吸入薬が効果不十分の場合には、他に手段がない場合もあります。
漢方薬
漢方薬にも有効な製剤がたくさんあります。体質に合わせて「小青竜湯」などを中心に使います。しかし吸入薬をいっさい必要としなくなるほどの効果は期待できないようです。
幸いなことに私は喘息患者を死に至らしめたことはありません。でも救急外来では、呼吸が止まって、ぎりぎりで回復するようなきわどい思いを何度も経験しました。喘息は死の可能性がある病気ですから、自己流の治療は避けるべきです。患者さんに聞くと、「今までいつも自分で発作を予測できたので、今回こんなに悪くなるとは思っていなかった。」と、きまっておっしゃいます。
治療指針は10年前からほとんど変っていません。予防の吸入薬を中心に、気管支拡張剤や飲み薬を必要に応じて併用という考え方です。最初は充分量を使って、コントロール状態を見ながら減量という方針も変っていません。
平成22年2月28日 院長 橋本 泰嘉